「世界中を走り回っているのはどんな人か知ってる?」
「温州人でしょう。温州人がいない地域を見たことがないね」
「それは間違っているよ。ある地域には温州人はいないんだよ」
「どこ?」
「3カ所。1つは、お金がない地域、1つはマーケットがない地域、それからもう1つはビジネスチャンスがない地域」
「それなら間違いだよ」
「なんで?」
「世界中でお金もマーケットもビジネスチャンスもない地域なんてある?」
「考えてみれば確かにないね」
――曹給非著『左手猶太人 右手温州人』より
ドバイの不動産買い付けが話題になるなど、“お金持ち”としてのイメージが強い温州商人。しかし彼らのビジネスの手段は、不動産投資だけではない。むしろ、手段を選ばないと言ってもいいかもしれない。彼らの商魂から、日系企業は果たして何を学ぶことができるのだろうか。
かつて鉄道がなく、交通の便の悪かった温州では、市内を南北に走る「国道104」が外地へと通じる唯一の道だった。1990年代初頭、温州人が大挙して上海へ向かうために利用したこの道は“財富之道(富の道)”と呼ばれていた。
数字でみる温州の経済力
1980年代は寒村にすぎなかったといわれる温州。だが、いまやそこは、中国でももっとも豊かな地域の1つにまで数えられるようになった。なぜ、温州はダイナミックな変貌をなしとげることができたのか。その背景をひも解いていく前に、温州の経済力をデータでおさらいしておこう。
①可処分所得
まずは、総収入から税金などを差し引いた自由に使える所得、「可処分所得」に注目してみよう。図1は、温州と上海、北京、広州の平均可処分所得(都市住民のみ)の推移である。2008年には上海に追い抜かれたものの、それまでは温州が中国3大都市を上回る所得を誇っていたことがわかる。
温州は長く長江デルタの都市のなかで、もっとも平均可処分所得の高いところだった。中国の全都市でみても、第4位(08年。ちなみに1位は東莞、2位は深セン)にランキングされている。
②預金総額
次に、一人あたりの預金総額に注目してみよう。図2をみてもわかるように、他の大都市にくらべるとかなり少なく、08年末で2万8290元となっている。
所得が多いにもかかわらず、預金残高が少ないとなれば、よほど散財しているのかと考えられそうなものだが、平均消費支出に目をやってみると、上海と大差はなく、(可処分所得が温州よりも少ない)広州よりも低いことがわかる。つまり、温州人が派手な消費行動をみせているわけではない。
どうやら、他都市では貯蓄に回っているお金が、温州では投資に向かっているとみてよさそうだ。
③自動車保有比率
都市住民の自動車保有比率をみると、温州人の豊かさがより鮮明になろう。07年の100世帯あたりの自動車保有台数は、他の主要1級都市を圧倒している(図3)。都市ごとの保有規制や、温州市政府の普及促進策(07年11月、温州市は普通乗用車のナンバー競売を廃止した)の影響を考慮に入れるとしても、なお驚異的な水準といっていい。
もっとも、自動車の普及にともなって、ひどくなっているのが交通渋滞だ。国家統計局は、「公共駐車場や路上臨時パーキングスペースを市区内に増設」する必要性を指摘している。温州市民も「解決してほしい10大案件(08年)」の第3位に交通渋滞をあげている。
④産業構造
08年の統計によると、温州の産業構造は、第1次産業が3・1%、第2次産業が53・1%、第3次産業が43・8%で、製造業が盛んな土地柄を反映した数字となっている。生産の盛んな品目については、同市の海外輸出構造をみるとわかりやすいだろう。靴・アパレルに代表される軽工業と、電機機械の生産が、温州製造業の主力であることが見てとれる。
⑤フォーブスと胡潤の富豪ランキングにみる温州人
最後に、中国富豪ランキングの2強、「フォーブス」と「胡潤」の最新発表から、温州人の資産家トップテンをみていこう。統計方法や発表時期の違いもあり、両者のランキングにはばらつきがあるものの、それぞれのバックグラウンドを産業別にみると、ここでもやはり、「美特斯邦威(Meters/bonwe)集団」「森馬(Semir)集団」など伝統産業であるアパレル、「正秦集団」「徳力西集団」など新興産業である電機のランクインが目立っている。
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