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切符発売開始の情報を発見したのは、発売当日の明け方午前2時だった。
半月ほど前、いや数ヶ月前から、6月末に北京―上海間の京滬高速鉄道が開通することが確実になったことは新聞紙上を賑わしていたが、実際に本当に切符が発売されるまでは何が起きるのか分からないのが中国の鉄道開通事情である。
開通予定の2週間程前から、鉄道切符の販売期間の調整が行われるなどして、いよいよかと思わせる雰囲気は始まっていたのだが、肝心の開通初日分の切符発売日がなかなか発表されず毎日キリキリしながらニュースをチェックしていた。
そうやって23日の夜中にようやく見つけた情報が「24日午前9時から発売、一番列車は北京と上海からそれぞれ15時に発車」という情報であった。
早速次の日、パスポートのコピーを持って上海市内の代理販売所へ向かう。販売所では新聞発表と同様の内容の張り紙が貼ってあり、ネットの情報は間違っていなかったようである。
ところが肝心の窓口の担当の方がこの情報を把握していなかった。
モタモタしているうちの売り切れてしまうことが怖いこちらは、必死で一番列車の話を伝え、何とか切符を発券してもらった。
「買えた!」
G2という列車番号で上海虹橋駅から北京南駅まで2等席で555元。通常このG2列車は午前9時の発車となるようで、今回は開業日の特別ダイヤによる運行ということだった。
とにかく買えてまずは安堵である。
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| 栄光の一番列車切符 |
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上海虹橋駅の地下切符売り場の様子 |
開通当日の上海虹橋駅はセレモニーが・・・何もなかった
さて開通当日の30日はお昼ごろに、切符とパスポートを持って上海虹橋駅を向かった。列車の発車時間は15時であったが、北京発の一番列車は開通式の式典が行われるとの情報があり、同時発車の上海側でも何らかのイベントが行われるのではと、こちらは情報はなかったものの期待を持って早めに上海虹橋駅を訪れてみた。
ところが、上海虹橋駅に着いてみると、出発改札口には多少の表示があるものの、全体して大して変わる様子がなかった。
報道関係の人々はそれなりの数がいて待合席で出発を待つ人に対してインタビューを行う姿は多々あったが、セレモニーめいたものは北京だけだったようで日本のようなそれぞれの駅で開通式典を行う姿を想像していたこちらにとっては拍子抜けであった。 地震のため中止にはなったが、先日の九州新幹線の開業式典が各駅で行われるはずだった状況と比べればエライ差である。新幹線に対する沿線市民の期待度の違いというか国民性の違いということであろうか?。 比較的盛り上がっていたのは当日の消し印を押してくれる記念切手のコーナーだった。中国にも切手コレクターは意外と多く、価値はつきそうだが、ちょっと華々しさには欠ける。 やはり構内放送だけでもいいから、鳴り物入りでやってほしかったというのが正直な感想で、世界に派手に報道された割には現場は地味という感は否めない。
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| とりあえず専用待合スペースは設けられていた |
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当日の消印封筒サービスの行列 |
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| テレビニュースのリポーターも収録テスト中 |
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上海虹橋駅でインタビューを受ける女性 |
さて改札が始まる。VIP席の人は優先乗車できるようで、別の入り口がある。入り口に立つ係員さえも綺麗な制服に身を包んだ美しい女性がいてVIP席は待遇がかなり違う感じだ。
だががこちらは2等座席でいわゆる庶民席であり、みんな先を競って雪崩のように自動改札を通り抜ける。
高速鉄道は飛行機同様に実名制が始まっていたので身分証明書のチェック、つまり外国人であるならパスポートのチェックがあるのかなぁとドキドキして構えていたが何のチェックもなく改札口をスルーして、そのままホーム階に下りることができた。
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| VIP用の入り口と係りの女性 |
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自動改札から一気に乗り込む |
ホームに下りると、みなあちらこちらで記念撮影を行っていた。
もちろん一番人気は先頭車両の先頭部分。日本のどこかの新幹線にソックリ!といったら中国の技術者たちに怒られるかもしれないが、スマートに伸びた鼻の部分を始め車両全体がピカピカに磨かれており、さすが一番列車も車両だなと思わせる美しさである。
また列車の車体番号の部分なども人気がある。記念乗車したという証拠になりマニアにとっては後々語り継げるお土産になることであろう。
今回どこかの地方組織の団体のような人々が横断幕を用意して乗り込んでいた。恐らく建設に携わった人々のようだったが、招待ではなく自分で切符を購入したと言っていた。なかなか用意周到で凄い気合である。
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| 横断幕をもって記念撮影 |
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証拠の切符ともに記念撮影 |
さて列車に乗り込む。中国の高速鉄道車両自体は初めてというわけではないので、車両自体に驚きはないのだが、さすが初日ということでピカピカに磨いてあり非常に綺麗である。
従来の中国の列車車両に比べたらその美しさたるや雲泥の差である。是非いつまでもこの綺麗なまま使い続けてほしいと思わざるを得ない。
そして今回車内に入って驚くのは想像以上の報道人の多さである。まあこちらも一番列車にわざわざ乗り込んで記事をこうやって書いている以上、ある意味向こう側の人間ともいえなくはないが、それにしても多くのTVカメラや、スチール、マイクなどを持った取材陣が車内をひっきりなしに往来し、実は一般乗客はいないのではないかと思わせるほど数が多かった。しかもさすが上海発の列車ということで上海の報道機関がほとんどを占めていた。
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| 洗面スペースも真新しく綺麗。 |
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車内で取材するテレビカメラ |
いよいよ世紀に待った瞬間である。
扉が閉まって列車がゆっくり滑り出すように動き出す。
が、その瞬間時計を見ると、あれ?まだ15時まで3分ほどある。
運転士が最後の3分を待ち切れなかったのか、運転士の時計が3分進んでいたのかわからないが3分早く走り出してしまった。こちらの時計は何度も調整してきているので間違いはないだろう。
こんなところが未だ中国的といえば中国的である。
さて列車が走り出した瞬間に車内で拍手でも起きるのかと思ったら、そんな雰囲気はまったくなく、通常の列車運行のように普通に走り出してしまった。
やはり国民性の違いなんだろうか?こういったところでもやはり少し拍子抜けする。
どうもセレモニーの扱い同様に、開業そのものはともかく上海発の一番列車にはそれほどの価値感を感じていないようだった。G2という列車番号がそんなにG1との差を生んでいるのだろうか?そんなつまらないところに上海に住んでいたことをちょっぴり怨んでしまう。
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| 扉が閉まる |
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いよいよ車両が動き出した |
気を取り直して、車内をチェックする。
まずこれまでの高速列車との大きな違いは、各座席下に電源コンセントがついたところであろう。
220V電圧で300Wまで取れるので、携帯電話の充電やパソコンの電源のバッテリ切れを心配することなく使用できる。許容範囲内なら三叉型と二又型を同時に差して使える。
全線で5時間という長時間移動を考えればありがたい設備である。
また車内にはWIHIの無線も飛んでいた。ただ残念ながら二等席車両に電波が飛んでおらず、携帯電話をもって一等席車両まで行って確かめて見たような状況である。確かに一等席車両には電波があるようで、つまり一等座席なら移動中もネット接続が可能で、スマートフォンなどでも通信料を気にせず移動中の通信が可能ということのようだ。
上海―北京間のGタイプ列車の1等席は935元で、その2等席より380元も高いのだがそれだけ多く払えば、忙しいビジネスマンは移動中も仕事ができることになる。もちろん1等と2等で4列と5列というシート幅の差も元々あるが、それ以外にこんな差があるとなると単なる座席価格では席を選べなく、倹約主義の乗客でも状況によっては非常に悩むところである。
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| 二等座席の様子 |
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足元にある電源コンセント |
そしてさらに凄かったの商務席と呼ばれるビジネス席の座席。車体幅に対して3列というゆったりとした並びかつ座席の前後の間隔も広い配置、しかも椅子そのものは革張りという贅沢な仕様で、1車両あたりの定員も2等85名、1等56名に対してビジネス席はたった27名である。
そしてシートを倒せば、ナントほぼ水平に寝ることも出来、航空会社のCMに出ていたあのフルフラットシートそのままである。
さらにテレビモニターも付き、映画などのエンタティメントも楽しめるようでまさに航空機のサービスを意識している。もちろんパソコン電源やネット回線も問題なく使えるであろう。
またこの中間車両タイプの商務席のほかに、他の高速鉄道にも設置されていた観光席と呼ばれる最前部と最後部の運転席が見える座席も設置されている。
こちらと商務席はいずれも上海―北京間で1750元で、実は席数が少ないこともあり今回のこのG2列車で真っ先に売り切れたのはこの席だったようだ。
ただ、後のニュースによると、初日以後の列車ではこの席はあまり売れていないとのことで、確かに一度は乗ってみたいものの相対的に高すぎる感は否めず、全列車に必要とされる席かはちょっと疑問である。
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| ビジネス席は広々 |
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革張りの豪華な椅子 |
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| ゆったり眠れそうな椅子 |
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運転席が見える観光席 |
今回は既存の高速列車と違い、長時間運行の鉄道であるため非常に気になったのが食堂車のメニューである。
今回開通一番列車ということで取材陣など車両間の人の往来が多く、そのためか車内販売がほとんど来なかったため飲料1本にしろ食堂車に行かざるを得なかった。
食堂車で注文したのが写真のようなお弁当である。いわゆるプレートタイプの食事は無い様で食事はお弁当が全てのようである。今回買ったのは紅焼肉のお弁当で価格は30元。 中国の物価から考えると弁当としては決して安くもないが、「高速鉄道に乗れる人」の所得水準を考えればまずまず妥当なセンかもしれない。
味は特筆するほどおいしいわけではないが、まあまあイケル。日本人でもまず大丈夫であろう。
ところで食堂車の座席は1等席の人も来るので、意外と座り心地がよかった。気をつけないとついつい長居をしてしまい他の人に迷惑をかけてしまいそうな席である。 また、ビジネス席には席まで運んでくれる豪華専用弁当があるとの噂を聞いたが今回は残念ながら眼にすることはなかった。
本来のG2列車は上海虹橋駅―北京南駅間は南京南駅以外は停車しないのだが、この開通一番列車は特別ダイヤで運転されたため済南西駅や天津南駅にも停車した。 主要駅では分岐線上にある天津西駅以外は停車したことになり、今回各駅への顔見世興行的な意味合いかもしれない。
南京南駅へ停車したときは地元のテレビ局がやはりホームで中継を行っていた姿があった。
ところでヘ愛煙家の皆様には悲しいお知らせだが、この京滬高速鉄道は車内禁煙である。
従って停車するたびにホームで喫煙をする人の姿が多数見られた。ただホーム上も恐らく喫煙可能とはなっていないのでは思われ、そういう意味では愛煙家にとってはこの列車の旅は長く辛い時間なのかもしれない。
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| 南京南駅でもテレビ中継 |
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駅の停車中に喫煙する男性 |
特に大きな開通イベントがなかったこの列車にせめてもの花を添えたのが、女性の客室乗務員さんたちである。通常は1編成16両に1人の列車長と4人の車掌、そして10人の清掃係、食堂車の担当しか乗車しないが、今回はやはり記念列車ということで顔見世興行的に全ての車両に1人ずつの乗務員がおり華やかであった。
それぞれがみな若くて容姿端麗な女性ばかりで、話を伺ったところによると、昨年の年末に応募し3段階の試験を経て合格した後、3ヶ月の訓練を受け晴れてこの日を迎えたとのこと。 外国人が乗るので英語の資格も必要で、それ以外に国土の広い中国では標準語を綺麗に話せる必要があり中国語の普通語の資格も必要なんだと話していた。
ただ見た目が華やかな彼女達の仕事も、上海―北京間の5時間は腰を下ろすことは許されず立ちっぱなしで業務に当たらねばならないようで、想像以上に重労働であるようだ。
しかも驚いたことに、今回はこの開通列車が北京へ着いたら北京に宿泊するのではなく、そのまま折り返しで上海へ戻り、翌日以降の通常シフト業務が始まると言っていた。しかも次の便がまだ伝えられておらず、次にどの列車に乗るか分からないのだそうだ。戻りは営業列車ではないので座れるのであろうが、上海に着くのは恐らく午前様で見た目以上に非常にハードな業務のようだ。
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| こんな美人がいたら長旅も楽しい? |
1300kmもの距離を走る列車は、場所場所によって天気も大きく変化する。日本で1300kmの距離というと東京―長崎間に匹敵するので全区間天気が同一ではないのは当然といえば当然である。
上海を出発した時点では少し重たい空だったが、南京を過ぎ安徽省付近では綺麗な青空が見え清清しかった。だが天津以降は非常に濃い霧でまた重々しい天気だった。
このように風景も変化に富み、5時間の風景も意外と飽きるものではない。
車内を遊び回る幼い子供の姿も楽しく、それを眺めているだけでも楽しい。
ところで、今回は車内に表示される速度表示が最高313kmまで出ていた。確か安全のため最高速度は300km/hに抑えるといっていたのに、これはどういうことなんだろうという疑問は感じたが、まあ揺れもそれほど大きくなく運行は順調だった。
とにかく意外と短い5時間の後、定刻より3分早く北京南駅に到着した。出発が3分早かったからちょうどいいといえばちょうどいいのだが、日本人として何だかなぁという感じである。やはり運転士の時計が3分早いようである。
ドアが開いて、降りた乗客が発声した第一声が「アツーイ」というものだった。
この日の北京はそれだけ蒸し暑く、逆にそれだけ今まで快適な車内の中にいたということでもある。
到着したホームでは早速またテレビ局のインタビューが行われており、乗車の感想を聞かれていた。一番列車の長旅もここで終了となる
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| 制限速度300kmでは?? |
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青空も垣間見えた |
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| 小さい子供も興味津々 |
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無事到着後もやはりインタビュー |
終わって見るとあっという間だった約5時間の行程。開業初日ということで乗客全員が浮き足立っていた感があり、特にビジネス席は色んな人が見学に行くなど、当方も含めて迷惑をかけてしまった感は否めない。
ただこの一番列車ばかりは、そういう純粋な旅行客というのはほとんどいなかったようで、この雰囲気を含めて開通を楽しむ時間というのがお互い様なのではないかと勝手に自己弁護する次第です。
皆さんが京滬高速鉄道を利用の際は他の乗客に迷惑をかけないよう、旅を楽しんでいただきたい。
(2011年7月記)
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