TOP > FEATURE >天下の奇観・海寧潮(後編)

天下の奇観・海寧潮(後編)



「天下の奇観・海寧潮(前編)」へ >>

 タクシーは銭塘江のすぐ北側を走る滬杭公路を西に向かって駆け抜ける。鮮やかな緑のアーチが延々と続くこの道は、かつては上海と杭州を結ぶ海寧の大動脈でもあったが、今は逆流を見るためくらいにしか使われなくなった。

 15分ほど走った頃、車は次の見学ポイントである塩官鎮に到着した。どうやらまだ潮は到着していない。「間に合ったぞ」と運転手は誇らしげだが、曲がりくねった道をあれだけのスピードで飛ばせば負けるわけがない。
 塩官鎮には先ほど述べた観潮勝地公園があるが、その少し先には川べりが開放されているため、わざわざ入場料を払って観覧席に上る必要はなさそうだ。

 
(左)タクシーは潮を追って西へひた走る。そんなに焦らなくても間に合うが、運ちゃんは全速力だ
  (右)無料開放されている塩官鎮の河岸。 向こうに見えるのは観潮勝地公園の占鰲塔。400年前に潮を鎮めるために建てられた


東から迫ってくる一本の線

 到着してから10分くらいすると河の左手のほうから例の白い線が近づいてきた。ゴーッという音も大きくなってくる。白い一本の線は途切れたりくっついたりしながらオーロラのように波打って迫ってくる。これが塩官の『一線潮』だ。怪物はあっという間に目の前を通り過ぎた。後姿を見送ると、その背には8本ものうねが伴っていた。



 
(左)オーロラのように揺らめく潮 (右)潮の背中には大きなうねりが


 追跡はさらに続く。最終見学ポイントは塩官鎮から西へ11キロの老塩倉だ。運転手はアクセルを踏み込み先を急ぐ。タクシーの前も後ろも追跡の車が続いている。

 老塩倉は潮がぶつかり引き返していく、いわば折り返し地点。ここへ到着するまでに勢いを増した潮が全身の力をこめてぶつかるのだから、昔からここの水害は相当大きかったことだろう。今は高さ9メートルの堤防が650メートルに渡って続いており、強固な守りになっている。
   今度も先回りに成功した私たちは堤防に登って潮の到着を待つ。しばらくすると人々がまた「潮来了!」と叫んだ。その声に混じって「今日のは小さいぞ」という声もする。地元の人にとっては今日の敵は小物らしい。バイクで禁止区域まで挑発に行く人もいる。

 
(左)潮は老塩倉の湾曲した堤防にぶつかり引き返す
  (右)立ち入り禁止区域だが敵は小さいので皆安心している。遠くに白い潮が見える


堤防にぶつかる瞬間。一見、潮は小さく見えるが余波が大きい

 やがて潮は濁流となって目の前まで迫って来、ドーンと壁にぶつかって散った。『回頭潮』という名の通り、潮は水泳のターンのように壁にぶつかり、もと来た方向へ引き返していった。
 潮が引き返して行った後は堤防の地面が少しだけ濡れていた。数メートル後ろの土嚢が数日前の潮によって湿っているのを見ると、確かに今日のは少し小さかったのかもしれない。潮が引き返してしばらくすると、河はいつもの静けさを取り戻した。

 
(左)遠くには引き返していく潮の後姿が  (右)今日の潮はすこし小さかった

 とりあえず、海寧潮との対決は、全ての先回りに成功した我々に軍配が上がったといえるかもしれない。
 しかし千数百年もの前から、時には人を襲い、時には人と対峙しながらもなお、人々を魅了して止まないこの自然の怪物を前に、人間というのはあまりにも小さい存在だというのが印象だ。


 ちなみに、市内から3箇所の逆流見学ポイントを回ってまた市内に戻る今回のコース。途中で1箇所、風情街という昔の街並みが残る観光地に寄り道をし、要した時間は全部で3時間半。タクシー料金はメーターで270元だった。出発前に値段交渉をしてみてもいいかもしれない。


ツアーのガイド役を買って出てくれた運転手の費先生

 そして観潮節についてだが、あの小さい町に数万人から10万人も押し寄せるということ事態想像もつかないので、上海からのバスの切符が取れるのかとか、タクシーはつかまるのかなどについては残念ながらお答えすることができない。観潮節にはそれに合わせて多くの旅行社がツアーを企画しているので、この期間中はツアーに申し込むのが賢明かもしれない。
 ただ筆者の個人的な意見としては、人もまばらな河べりで潮の到来を待つあののんびりとした空気がとても気持ちよかったので、是非それを味わってもらいたい。人ごみにもまれるのは上海だけで十分だろうという気もする。


 さて話は変わるが、前編で少し触れたようにここ海寧市は革製品の産地としても有名だ。約1年前には中国最大の皮革製品マーケットである「海寧中国皮革城」がオープンし、休日には買い物に訪れる数千台の車で広大な駐車場が埋め尽くされる。
 今回はこの海寧中国皮革城に立ち寄る時間はなかったが、代わりに海寧駅の目の前に古くからある皮革製品マーケットをのぞいてみた。

 
(左)海寧中国皮革城には2000軒のテナントが入る
  (右)海寧駅前の古い皮革マーケット

 今はまだシーズン前なので客はほとんどいなかったが、品数は多く、今なら大幅な値下げ交渉も可能だ。陳列してあるもののデザインは多少古く感じられたが、オーダーメイドを受け付けているのでオリジナルを作ることもできる。

 
(左)皮革マーケット内 (右)女性用レザーコート800元。言い値なのでもっと下がるかも

 
(左)ファーの手提げバック 80元 (右)ファーボレロ 200元

 
(左)フード付きファーベスト 250元 (右)レザー手袋 20元~


 今回は駆け足の日帰り旅行ではあったが、上海から2時間足らずで思い切り非日常を味わうことができた。目をつむると白く首をもたげる潮と轟音が今でもよみがえってくる。
 また次の機会にはもっと豪快に荒れ狂う潮と対峙してみたい。どうやら、いにしえの詩人達のように、この自然が織り成す雄大な業にすっかり取り付かれてしまったようだ。

2006年9月 大山ゆき



[エクスプロア上海TOP] [上海・上海近郊の観光] [エクスプロア中国トラベル ホテル&航空券]

Copyright(C) since 1998 Shanghai Explorer