エクスプロア上海 上海TOP > FEATURE >上海のルーツをたどる②さらば!河南路橋

特集シリーズ 上海のルーツをたどる②
さらば!河南路橋



 上海ではいま旧市街地の整備事業が急ピッチで行われている。そんな中、また100年の歴史を誇る由緒ある橋の取り壊しが決まった。それが、河南路にかかる「河南路橋」だ。

 地下鉄2号線、河南南路駅を下車して河南中路を北へ歩いていく。以前、この界隈にはたくさんの店が集まっていたが、今はすべて取り壊されて更地となっている。これは現在、4車線しかない河南路の通りを6車線にするためで、さらに地下鉄10号線の工事も始まる。


 建物の取り壊し作業真っ只中の河南南路を、頭上と足元に十分に注意しながら北を向いて歩いていくと、目の前に蘇州河が開けてくる。この蘇州河にかかる橋が、まさに「河南路橋」だ。ちょうど、黄浦区と虹口区、閘北区の境目ぐらいに位置する。

 清代の道光23年、ここにはまだ橋はまだ存在せず、渡し舟が行き来していたという記録が残っている。そして、清代光緒元年(1875年)に、イギリスの租界工部局が、木造の橋を建築した。さらに、1925年に今のコンクリート製の橋が新たに設置された。これが現在の「河南路橋」の前身となる「天后宮橋」となる。

 実は、この「天后宮橋」という名前には由来がある。橋の北側に「天後宮神廟」と呼ばれる廟があったことに関係している。天後宮とは、またの名を道教の媽祖廟といって、航海の神様である女仙人のことをいう。福建人や広東人の信仰が厚い媽祖廟は中国各地にあって、上海でも福建商人が宋代に上海十六鋪の外灘エリアに建設したようだ。
 今でも中国各地にこういった媽祖廟があり、特にマカオの媽閣廟や香港の天后廟が有名であるが、実は上海にも立派な媽祖廟があった。それが、この河南路の北側に位置していたのである。


解体間近の媽祖廟

 上海河南路にあった媽祖廟は光緒九年(1884年)に外灘エリアから再度移築されたものである。その当時、上海の媽祖廟はちゃんとした規模で存在せず、それではだめだと、清代の役人が急遽作らせたとも言われている。そのため、河南路のものは広場や舞台、主殿、寝宮などの建物から構成されたかなりの規模のものとなっている。これから航海に出かける商人たちが、旅の安全を願って線香をたいて祈願にやってきたという。

 廟の周りには、多くの行商人たちが露天を並べ、大いににぎわった。いま豫園にある上海名物の薬膳お菓子「梨膏糖」は、このあたりでも名物として売られていたそうだ。また、一説によれば、この媽祖廟は租界地の中にあったのに、工部局の管轄に入っていたなったため、租界地などから犯罪者たちも集まってきたそうだ。

 こうやってこの廟が最も栄えたのが1940年代で、上海全土からお参りにやってくる人が絶えなかったそうだ。上海でも有数の寺院となる。

 その後、上海での戦乱や、文化大革命による破壊、さらに住民が住み込んでしまって、当時の面影は一切なくなってしまった。

 さらに、保存されるまでの道のりは長かった。2000年にやっと閘北区文物保護建築に指定された。このうち、主殿は1980年の河南路拡張工事の際に松江区の方塔園に移築された。松江区では、さらに60万元投入して、ご神体の修復作業も行った。今でもその豪華な木造の彫刻は、松江区の方塔園にいけばみることができる。

 しかし、舞台部分は住民が複雑に居住していたために、移築が見送られていた。そして、今回ついに地下鉄10号線の駅工事のために解体されてしまった。今、付近はすっかりと更地になっている。ただ、幸いなことに文化財として移転移築することが決まっているので、いつか往年の姿が見られることになるだろう。

 
(左)よくみると、かなり細かい彫刻が施されています
(右)いまではもうすっかり解体されて更地になっています


河南中路はいま工事の真っ最中

 さて、そんな河南路も上海市中心部の重要な幹線道路としての役割が増し、交通量も増えてきた。慢性的な渋滞が発生する道路となってしまった。重さ60トンの積載トラックまで対応できると建設された河南路橋も、道路拡張工事のために取り壊しを余儀なくされた。




 
(左)橋脚に施された彫刻   (右)橋の上から

 
(左)橋の南側から望む  (右)ダイナミックな曲線が美しいです


 新しい橋は長さ120メートル、現在の4車線から6車線に拡張される。そもそも橋取り壊しの直接の原因は、河南路橋に使われている杭の深さが地下10メートルにまで達していて、地下鉄のシールドにぶつかってしまうということもあったらしい。

 橋の撤去にともない、バス・歩行者用の簡易の橋を設置して、この橋も3ヶ月の時間をかけて取り壊しが行われる。往年の姿を見るには、まさに今が見納めかもしれない。

(2006年10月記 山之内 淳)


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