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天下の奇観・海寧潮(前編)


塩官鎮の一線潮


 「八月十八潮,壮観天下無(8月18日の潮、その壮観天下に無し)」 宋の詩人蘇東坡によってこう称えられた銭塘江の海嘯。潮の満ち引きと独特の地形によってもたらされるこの神秘な川の逆流現象は、宋の時代から多くの人を魅了して止まない。

 海嘯は、川幅と湾の幅の差が大きいラッパ型の河口付近に発生し、銭塘江のほかイギリスのセヴァン川、南アメリカのアマゾン川など世界でも十数箇所でしか見ることができない珍しい現象だ。


杭州湾地図:河口は顕著なラッパ型 これが神秘をもたらす

 銭塘江では潮の大小はあるものの一年を通じて逆流を見ることができる。潮の高さは大体1.5~2メートル前後。旧暦の8月15日前後は最も潮の干満の差が激しく、台風の影響で水量も多いため、時には3メートルにも達する豪快な逆流が見られるという。

 神秘の舞台は浙江省海寧市。上海から西南方向へ120キロ、杭州市の45キロ手前に位置する。この海寧では漢の時代から逆流見物の習慣が始まり、南宋の時代には毎年旧暦の8月18日を観潮節と定めて祭りが始まった。この祭りは現在に至るまで続いており、期間中は中国全土、はたまた世界各地から10万人を超える観光客が自然の神秘を体験しにこの小さな町を訪れる。
 ちなみに2006年の観潮節は10月5日~11日(旧暦の8月14日~20日)となっている。今回、一年中で最も大きな潮が見られる中秋を前に、その奇観を味わうため出掛けてきた。


 さて、逆流を見に行くに当たっては、まず当日の潮がいつ来るのかということを把握しておかなければならない。下の表は潮が来る目安の時間だが、何しろ自然が相手なのでこの時間はあくまで目安と考えて欲しい。実際筆者も14時の予定のところ13時前に潮がやって来たので危うく見逃すところだった。せっかくの遠出が無駄足にならないよう、1時間前を目安に見学ポイントに着くようにしたい。心配な人は海寧に着いたらまずタクシーの運転手をつかまえて聞いてみるといい。彼らは長年の経験から微妙な時間のずれを心得ている。

旧暦1月2月3月4月5月6月
初一12:1512:4512:4012:5012:2512:55
初二12:5013:2013:1013:2513:0013:25
初三13:2513:4013:4013:5013:3013:55
初四14:0514:2514:1513:5514:0514:30
初五14:4015:0014:4514:2514:4515:20
十五11:1011:4011:5011:3011:5012:35
十六11:5012:4012:4012:0512:4013:20
十七12:4013:1013:2012:5513:2513:55
十八13:2513:5014:0013:4514:1514:40
十九14:0014:3014:4514:3515:0015:15
二十14:4015:0515:2515:2015:5015:40

旧暦7月8月9月10月11月12月
初一12:5512:4012:1011:5011:5011:45
初二13:3513:1512:4512:3512:3512:30
初三14:0513:5013:1513:1513:1513:20
初四14:5014:1513:4513:5513:5514:10
初五15:3014:5014:2514:2514:4514:45
十五12:2012:3012:1011:4011:4511:20
十六12:4513:1012:3512:0012:1512:00
十七13:3013:4012:5512:3012:4512:45
十八13:5514:0013:3013:0013:2013:10
十九14:3014:3513:5013:4014:0013:30
二十15:0015:1014:1513:5014:3014:00


 上海から海寧へは鉄道と長距離バスがある。今回は本数が多くて快適なバスの旅を選んだ。海寧行きのバスは昨年新しくオープンした上海長途汽車客運南站から1日9便が運行している(2006年9月現在)。
 潮の逆流は大体お昼前後。これを見るには朝一番の7時50分発か、遅くとも8時50分発に乗らなければならない。料金は片道40元で、所要時間は約1時間40分。
 ちなみに現在、地下鉄1号線の上海南站駅からこのバスターミナルまでは地下の連絡通路で直結したためとても便利に移動できるようになっている。

 バスは鉄道の海寧駅からほど近くにある長距離バスターミナルに着く。町には世界に名を轟かせる奇観の宣伝があふれているのかと思いきや、意外にも看板の一つすら見当たらない。あるのはここ海寧のもう一つの目玉、皮革市場の宣伝ばかり。これについては後述するとして、他はいたって普通の地方の町という雰囲気である。まもなくここに数万人の観光客が押し寄せるとは、にわかには信じがたい。ようやく駅の隣にあるホテルで観潮節のポスターを見つけ、少しホッとする。

 
(左)海寧長距離バスターミナル (右)町は以外にもあっさりしており、このポスターが唯一の宣伝だ


 逆流の見学ポイントは3箇所あり、市中心部からは車で30分ほど。中でも宋の時代からの観測地として有名なのが塩官鎮。ここには観潮勝地公園という公園があり、スタジアムのような観覧席が備えられている。観潮節の各イベントもこの公園を中心に行われる。入場料は平常時は20元で、観潮節期間は40元ほどに値上がりする。
 この塩官鎮へは公共バスT109で行くことができる。上海からのバスが着いた長距離バスターミナルが始発で、終点塩官鎮で下車。運賃は6元。

 しかし、筆者のおススメはタクシーを使った3箇所のポイントめぐりだ。塩官鎮から東へ7キロの八堡と、塩官鎮から西へ11キロの老塩倉でもまた、それぞれ違った趣の潮が楽しめるのだ。


海寧地図


潮を待つ人 この日の見物客は100人くらいか

 まずは市内から八堡へ。ここでは東と南からの潮がぶつかる『●(=石ヘンに並)頭潮』が見られる。すでに数十人の見物客が到着しており、みんな潮が来る方向を眺めながら今か今かとその時を待っている。
 間もなく水平線のはるかかなたにキラリと白い線が浮かんできた。潮がやってきたのだ。見物客は口々に「潮来了!潮来了!」と叫びながら堤防の上に避難を始める。パトカーも巡視にやって来た。毎年幾人かがチキンレースに破れて波に飲まれているのだ。

 
(左)潮の波立ちが白い線となってあらわれる
(右)巡視中のパトカーが堤防に上がるように呼びかけている


 しばらくすると地面を揺るがすゴーッという音が聞こえてくる。その音はどんどん大きくなって、気がつくと潮はもう目の前に迫っている。
 次の瞬間、潮はドーンと堤防にぶつかった。先ほどまで人が立っていたところに波がかぶさり、地面をぬらした。潮は勢いを保ったまま堤防に沿って方向を変え、河をさかのぼっていく。寄せては返す海の波とは明らかに違うその様子は、まるで獲物を追いかける巨大な生き物のようだ。

 
(左)潮がだんだん近づいてくる 地響きのような音 (右)もう堤防にぶつかるぞ!


ぶつかった潮は向きを変え、河を遡っていく

 潮の流れは時速20キロ。車なら普通に追いつける速さだ。先回りして次の見学ポイントに行く。
 「快!快!」タクシーの運転手にせかされ車に乗り込んだ。 巨大な怪物とのレースが始まった。

「天下の奇観・海寧潮」後編へ
2006年9月 大山ゆき



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