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福建・アモイ紀行
~客家土楼と温泉を訪ねて~


土楼の王「承啓楼」


 南国、港町、海鮮、烏龍茶、租界時代のきれいな街並み・・・福建・アモイと聞いてイメージするのは大方このくらい、いえこれだけイメージできれば十分といえるでしょう(実は筆者自身これくらいのイメージしかなかったということです)。
 しかし今回旅したのはちょっとディープな福建・アモイです。ガイドブックにはまだなかなか載っていない見どころを体験してきました。

 今回の目玉は大きく2つ。客家の土楼と温泉です。

丈夫な土壁

 まずは土楼について。
 私達が今回訪ねたのは福建省永定県。湖坑鎮洪坑村と高頭鎮高北村の土楼群です。

 土楼の紹介をする前にまず客家について触れなければなりません。客家とは「お客・よそ者」を意味する言葉です。もともと北方に住んでいた漢民族が戦乱や政治不安を避けながら南下して来て、福建省、広東省、江西省あたりに住み着きました。早くは4~5世紀から、最近では17~19世紀にかけて五度にわたる大規模な移住があったと言われています。その彼らを原住民は「客家」つまり招かれざる客と呼んだわけです。

 その客家人たちが原住民の居住地を避けて深い山間に自分達の住処を建てた。これが客家土楼なのです。
土楼には円楼や方楼など様々な形があり、その地域の赤土にもち米や赤砂糖などを混ぜたもので壁が作られています。他の材料も木や茅(かや)など自然の素材だけなのですが耐久性が非常に高い。数百年前の姿をそのまま維持しているだけではなく、地震でひび割れた壁も自然に元通りになるというのです。まさに客家人の知恵を結集した建築です。


 アモイを出発して約4時間、高速を降りて車は山間の道をひたすら走り続けます。道は一応舗装してありますが、切り立った山肌はところどころ崩れています。これから整備をするのでしょう、道の脇には石の山が積まれていました。

 延々と続くたばこ畑と棚田の風景にも飽きた頃、黄色い土壁の住宅がぽつぽつ現れ始めました。土楼です。山間に忽然と現れたその奇妙な姿に、何とも形容し難い不思議な感じを覚えます。

 
(左)土砂崩れの跡がある (右)山間に土楼が見えてきた


 一つ目の見学場所は湖坑鎮洪坑村にある永定客家土楼民俗文化村。民俗村といっても観光用に作られたわけではなく、村人が今でも普通に生活している場所です。90年代に政府によって民俗村として整備・開放され、建物の多くは重要文化財に指定されています。

 
(左)民俗村の入り口 (右)自然との調和が美しい


堂々とした風格の福裕楼

国の重要文化財振成楼

 なかでも一際目を引くのが「土楼の王子」の異名を持つ振成楼です。約100年前に建てられたこの土楼は敷地面積5,000㎡。祭事などを行うホールを中心にした3重構造で、一番外側の建物は4階建て。内部には合計216室の部屋があります。
 ここで暮らすのは林氏一族。どれも基本的には同姓の血縁者同士で一つの土楼が構成されています。お嫁に来た人は1年経っても全員の顔を覚えられないとはガイドさんの話です。

 
(左)2階の手すりはシンガポールから運ばれた (右)水道は井戸につながっている

客家家庭料理

 また民俗村の中で昼食をいただきました。村のお母さん達が作ってくれた客家料理です。鶏はさっきまで庭を走り回っていたのでしょう、肉がプリプリと締まっています。味は全体的に薄め。油をたっぷり使っています。印象的なのはお茶の美味しさ。水のよさが分かります。






 翌日見学したのは永定県の円形土楼の中では最も大きい承啓楼(冒頭の写真)。目の前に立つとその大きさに思わず息を呑みます。さすが「土楼の王」と呼ばれるにふさわしい荘厳なたたずまいです。この土楼は約400年前に着工され、完成までには3世代100年を要したとか。同心円の5重構造で敷地面積6,000㎡、直径73m、外壁の周りは229mに及びます。

 ここには江氏一族約300人が生活を共にしています。最も多いときでは900人ほどいたようですが都会に出てしまった人も多いのです。現在も若者は出稼ぎに行き、お年寄りと子供ばかりが目に付きます。

 
(左)階段の上り口で人の出入りをチェックするおばあさん (右)廊下の左側は各個室


4階から全体を望む

“要塞”の模型

 土楼を初めて見たときに奇妙な感じを覚えたのはこの大きさと形のせいでしょう。内部に入る門は1つしかなく、窓も3階以上にしかないというあまりに人を寄せ付けない姿。そう、これは住宅というより要塞そのものなのです。
 よそ者である客家人が原住民や他民族との衝突・同化から一族を守るためにはこれほどの工夫と覚悟が要ったということでしょう。実際内部には井戸や倉庫があり、また鶏なども飼っているため1年近い篭城が可能だったといいます。そしてその中で独自の言葉と文化を現代にまで継承し続けているのです。
 また学問を重んじる客家人は勤勉で才能豊かな人材を多く輩出しており、海外に散在する華僑の20%は客家人といわれています。李登輝、孫文、鄧小平、リー・クアンユーも客家人です。
 中国のユダヤ人―――商才に長けているという意味で温州人のことをよくこう言ったりしますが、私は客家人の歴史と生活を目の当たりにして、まさにこの人たちの中にこそ契約の民に通じる不思議さと力強さを感じたのでした。

 この土楼を見学するには外灯もない道を数時間ひた走らなければならないため日帰りは難しいです。私達が宿泊したのは土楼群から1時間半ほど離れた永定県内の3星ホテル「永定賓館」です。ちょっと尻込みするくらいの設備でしたがこの近辺で外国人が耐えうるのはきっとここくらいなのでしょう。もしくは思い切って土楼内の民宿に泊まるのもいい体験かもしれません。
 アクセスについてはアモイ市内で車をチャーターするなどいろいろ方法があると思いますが今回私が参加したようなパッケージツアーの方が安心でオススメです。
 またこの土楼はユネスコの世界遺産に申請中ということで2007年ごろの登録を目指しているようです。そうなるとかなりのインフラ整備が期待できそうですが、観光客の増大で村の姿も変わっていくことでしょう。


 さて、土楼を後に私達が向かったのは次なる目玉の温泉です。シャワーもそこそこにリラックスできない一夜を過ごした我が一行。期待は否が応でも高まります。
 しかし私には一抹の不安がありました。山之内さんのブログで中国の温泉の惨状を知ってしまったのです。果たして一行の運命やいかに?!

 この温泉は日月谷温泉といいアモイ市内から車で約30分のところにあります。この温泉の歴史は古く約400年前から地元の人の湯治に使われてきました。2003年に日月谷温泉リゾートとして5星ホテルと巨大な温泉娯楽施設がオープンしました。

 
(左)ホテル全景 (右)ホテルの向かいは巨大温泉施設

 ホテルは南国リゾートの雰囲気があふれ設備も申し分ありません。部屋も広々としていて、内装にはふんだんに石が用いられ清潔感と高級感が漂っています。おまけに各部屋に石造りの浴槽がありプライベート温泉を24時間楽しむことができます。

 
(左)立派なエントランス (右)客室内のプライベート温泉

ジャグジー温泉 男湯はもっと立派とか

 またホテルの1階には宿泊者が無料で利用できるスパ施設があります。中には大浴場やサウナ、マッサージルームがありリラックスムード満点です。 さて肝心の温泉ですが、予想に反してびっくりするほどきれいでした。というのは毎日お湯の入れ替えと掃除を徹底している上に、この大浴場の存在を知っている人があまりいないみたいでほとんど貸し切り状態だったからです。

 日月谷温泉の泉質は食塩泉。また重曹も含まれているため肌がツルツルになり湯冷めしにくい。しかも源泉の温度は80度~90度で湯量も豊富。従業員の話ではリゾート内の温泉は水を加えていない100%の温泉ということでした。
 また屋外プールの横には男女別の外風呂があり、こちらは水着着用ですが利用30分前に予約すれば新しい温泉を張ってくれるという贅沢なものでした。

 
(左)源泉 下からポコポコ沸きでている (右)新しいお湯を張ったばかり 雰囲気も日本さながら

 ホテルの目の前には温泉娯楽施設があります。ここには40種類以上の様々な温泉があり、牛乳風呂や酒風呂、砂風呂、プールなど全部回る頃にはすっかりのぼせてしまいそうです。
 こちらも掃除が徹底されお湯の張替えも毎日行われていて基本的にはきれいなはずなのですが、目撃者の話ではそこいらで用を足す子供がいたりお茶風呂を飲んだりする人がいたりと利用客のマナーに問題ありのようです。しかもゴールデンウィーク期間中だったので園内はイモ洗い状態。疲れを癒しに行く日本の温泉とは随分違います。でも時間をずらして行った私達は気持ちのいい開放感の中で存分に楽しむことができました。

 3日間のリゾート宿泊中、滞水中時間(?)のほうが長いのでは、というのはちと大げさですがそれくらい温泉を堪能した結果、3日目には自分の肌がツルツルのプリプリになっていたことに気がつきました。温泉でここまで効果を実感したのは初めてかもしれません。女性の皆様に自信を持っておすすめします。ここはビジンの湯だったのです!


 さて、私にとって初めてのアモイ旅行。変わりダネもいいですがやはり基本も抑えなくてはなりません。
 ツアーにはもちろんひと通りのアモイ観光が含まれていまして、駆け足ではありましたが南仏陀寺と精進料理、音楽と租界建築のコロンス島散策、鉄観音の新茶、海鮮だってちゃんといただきました。

 
(左)南仏陀寺の裏山からアモイの街並みを眺める
(右)小さいコロンス島は人だらけ。この日だけでも5万人以上の観光客


青々とした鉄観音の新茶


《終わりに》
 一生に一度は見たいと思って・・・と土楼へのあこがれを語ってくださった他の参加者の方々と比べ、恥ずかしながら土楼のドの字も知らず温泉に惹かれて申し込んだ今回のツアー。しかし結果的には私にとってこれまでに行った旅行の中でも圧倒的に印象に残るものの一つとなりました。
 中国にはまだまだ行かなければならないところがたくさんある。帰りの飛行機の中そんな思いを抱きつつ、いつの間にか心地のいい眠りに落ちていたのでした。

2006年5月  文・写真 大山ゆき

永定客家土楼民俗文化村
住所:福建省永定県湖坑鎮洪坑村
入村料:52元

厦門日月谷温泉渡假村
住所:厦門市海滄区東孚鎮湯岸
電話:0592-631-2222
温泉施設入場料:188元(宿泊者は80元)

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