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中国人と出国

日本で痛ましいニュースを目にした。

――密航の中国人か? コンテナの中で8人死亡――

ご存知の方も多いと思うが、中国の大連を出発したコンテナの中に密入国と思われる男女16人が潜んでおり、大井ふ頭で東京海上保安庁の職員が発見した。発見時には内8人がすでに脱水症と思われる症状で死亡しており、残りの8人についてもかなりひどい脱水症状を起こしていたという。夏のコンテナの中というのは真夏の直射日光で中の温度は40度を超える。そんな危険をおかしてまでなぜ彼らは外国を目指したのか?

去年一年間で中国人の集団密航は1,000人を超え過去最高に達した。今年もすでに650人に達し、再び1,000人を超える勢いである。集団密航については福建省出身者がその大半を占めるといわれている。その原因として考えられるのが福建省の地理的条件である。中国の立体地図または飛行機で上空を飛ばれたことがあればご存知かもしれないが、福建省一体は山が海岸沿いまで迫っており街が海に張付くように作られている。そのため土地が狭く農業に適さないばかりか中国他地域との交通も制限されている。このため福建人たちの目は自然に海の外に向けられるようになり、実際に多くの福建人たちが海外に出ていった。現在でもマレーシアやシンガポールその他アジアの国々には福建省出身の華僑が非常に多い。福建人の出国に掛ける意気込みは並々ならぬものがある。一族でお金を出し合いその一族の中から一人でも出国させようと努力する。それにより一族が潤うことを期待しているのだ。出国し海外で成功することは、昔に例えるのならば、一族から科挙の合格者を出すようなものなのだ。

それでは合法、不合法に関係なく出国した中国人の生活はどうだろうか?

中国には昔から「中国人の三刀」という言葉がある。これは「刀」を使う三種の職業を言ったもので、・料理人、・テーラー、・床屋である。中国では以前から、家庭の経済的な理由などから「学」をつけられない場合、幼少の時から子どもを三刀の修行に出すという習慣がある。そしてそれが現在になり「中国人の三刀」として残っているのである。出国した中国人たちは器用にその「三刀」を使い成功を勝ちとってゆく。事実、世界中のどのチャイナタウンでも「三刀」の店が非常に多い。華僑たちはそこを拠点に経済活動を繰り広げていき、一部のものは中国人特有の商才を発揮し大成功をおさめている。

これら海外で成功した華僑について私が常々感心している点がある。中国人(特に福建人)の場合、決して祖国のことを忘れず、成功した者は寄付などを一族、祖国のために帰すことだ。所謂「故郷に錦を飾る」とは少し違うような気がする。成功した者は故郷に残る人々のために、その成功の果実を還元するのである。こうした人物を多く輩出している福建人にとっては、出国が成功への第一歩であり、同時に一族、祖国のためであると誰もが信じているのかもしれない。

KONOK

(編集注:本稿は1998年8月に本サイトに掲載されました)


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