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I live in Shanghai−2−〜上海裏路地物語〜


体操!現在の住居に越してきて早くも一年が経過しようとしている。以前は前回も書いたように虹橋開発区の古北新区に住んでいた。しかし、いろいろと思うところあって、現在のアパートに越してきた。現在の住居は古北新区から少し北に行った上海人の住宅に囲まれたところにある。ご存知の方も多いと思うが、上海人が住んでいるアパートの多くは10年ほど前に作られているものが多く、建設当時に植えられた木々が今は立派な木陰を作っており、また路地が狭いため非常に緑に豊かに見える。その路地には普段、街では見かけることのできない上海人の生活がある。椅子を持ち合った老上海たちがランニング短パン姿で将棋やトランプに興じる姿や、天気の良い日などは洗濯物を外に持ち出し一生懸命に木に掛けようとしている上海老太太の姿を見掛けることが出来る。また休日に屋台の駄菓子屋がどこからともなく現れ、それに群がる子供たちを見ていると自分の幼少時代を思い出すようでどことなく懐かしい。

そんな裏路地の朝は早い。最初に通りに姿を見せるのは、屋台の「焼きパン屋」や「豆乳屋」「油条」などの朝食屋である。私も毎朝お世話になっているが、ここの焼きパン屋の蜂蜜パンがなかなかうまい。革靴の底のような形をしており見た目はイマイチだが、食べると中から熱々の蜂蜜がとろっと出てきて口の中にふわっと広がる、ちょうど食覚は新彊のナンのようである。一個0.5元。その値段もさる事ながら、更に感動してしまうのはその美味なる蜂蜜パンは、炭を入れたドラム缶の中で焼かれていることである。こんな普通のドラム缶の中から美味しいパンを作ることが出来るは中国4000年の食文化の賜物ではないかとつくづく関心してしまうのである。これが朝の4時くらいである。

その次に店を開くのは野菜売りである。鋪道一帯に自転車に積んできた野菜を並べ大声を上げてのセールスである。そんな野菜売りを見ていて常に思うのだが、こんなに発展した現在においても未だに彼らは手秤を使っている。確かに手秤はそうは壊れないし、電池の交換の心配もない。しかし彼らがこの手秤にこだわる理由は他にある。この手秤、棒やバランスを調整することによっていろいろと「重さ表示」を調整出来る。

これをある人に聞いて「なるほど」と感心していたら、先日もっと驚くことに出くわした。買い物をしている主婦達がキーホルダーのような電子秤を持ち歩いていることである。見ているとその電子秤で、彼らが量った物をもう一度量り直している。こんな裏路地の野菜売りからすでに上海の商売バトルが行われているとは、本当に恐れ入ってしまう。

朝の買物バトルが終焉を迎える頃には、米屋、生麺屋、豆腐屋、果物屋、合鍵屋、小物売りとアパートの周りをぐるぐると行商人の登場である。よくもこれだけいろいろな業種の人間が入れ替わり立ち代わり来るものである。本当に上海人の商売魂は凄まじい。しかしその行商人達も午後4時過ぎる頃になると徐々にその数を減らしてゆく。

そして夕刻。これまた朝同様、路地が賑やかになる時間帯である。買い物袋を抱えた上海男。パジャマでお出かけをする上海マダム。食後の夕涼み老人。これから出勤の上海夜小姐。そして、夏に真面目にネクタイとかばんの日系サラリーマンの私。上海のいろいろな人種が一斉に顔を合わせる、まさに現代中国が収縮された時間であり場所である。

そんな日々変わらない裏路地を通りながら、この雑踏の行方をもう少し観察したいKONOKでした。

(編集注:本稿は1998年6月に本サイトに掲載されました)


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