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天津そぞろある記タイトル

Root No.31
古文化街

日本への本帰国が決まりました。2003年6月より細々と続けてきた「天津そぞろある記」もこれがラストナンバーです。塵も積もれば山、何度か逃避行で休載しましたが、31回も連載を続けてこられたのは、ひとえに、喉まで出かけた打ち切り宣言を呑み込んで辛抱強くわたくしを野放しにしておいてくれた上海エクスプローラー編集部の方々と、同編集部にクレームの電話や怪文書や自爆テロリストを送り込まずに見逃してくれた読者の皆さまのおかげです。3年間、駄文にお付き合いくださいまして本当にありがとうございました。さて連載の最後を締めくくるのは「古文化街」です。

古文化街
古文化街 北の正門

友達が天津に遊びに来ることになった。はてさてどこへ行こう?──天津に5年も暮らしていると、そんなことに頭を悩ませることもしばしば。天津の伝統工芸・年画で有名な「楊柳青」、ロシアの航空母艦キエフ号、天津の長城「黄崖関」などなど天津に見どころがないわけではありませんが、いずれも市の中心部から遠いというデメリットがあります。楊柳青こそ車で30分程度ですが、キエフ号のある塘沽区までは車で2時間、黄崖関のある薊県へは3時間と、一日がかりの観光になることを覚悟しなければなりません。しかし大抵の天津訪問者にとって天津は通過地点、メインの北京や上海に時間を割きたいわけで、滞在時間は長くて2日、中には天津2時間で北京へとんぼ返りという人も。そんな人たちのために、短時間で手っ取り早く天津の町を知ってもらうには?

まずは天津のランドマーク「天塔」こと天津タワーに行くのがよいでしょう。展望台から360度天津を見渡すことで町の地理を掴むことができます。ただ、年中スモッグに覆われ、特に冬場霧の濃い天津では、展望台に登っても何も見えないこともあります。また、展望台はゆっくり少しずつ回転していて、ちょっと酔います。大人1人50元も払って、展望台からは何も見えず、挙句の果ては気分が悪くなる…。「天塔」は決して悪いチョイスではありませんが、リスキーと言えます。

その点、67%は外さない(微妙やな〜)観光スポットがあります。それがこの「古文化街」です。

古文化街地図

天津で最もポピュラーな新聞『今晩報』によれば、古文化街はもともと「宮南大街」「宮北大街」と呼ばれ、古城の東側一帯に古くから栄えた文化と商業の集中する地域だったそうです。1986年、天津市政府がこの地域の大規模な修復作業を行い、集客施設として人々に開放したのが現在の「古文化街」の始まりです。その後大幅な改築工事を行って2004年9月にリニューアルオープンし、現在に至っています。東は「張自忠路」を挟んで「海河」(くどいようですが、これは海じゃなくて河です)に臨み、南は「水閣大街」、西は「東馬路」、北は「通北路」に囲まれたエリアで、敷地面積13.9ヘクタール、建築面積20万平方メートル、エリア内を南北に突き抜ける街道は全長680メートルとなっています。古文化街には、「通慶里」「玉皇閣」「天后宮」などの歴史的観光資源をはじめ、「果仁張」「泥人張」など天津を代表する「老字号」(老舗)が軒を連ねています。また、老舗と言うには及ばないながらも、中国ならでは、天津ならではの楽器や玩具、装飾品などを売る店が街道の両脇にずらりと居並ぶ風景も見どころの一つと言えます。

通慶里 古文化街の東側、北の正門より入ってすぐのところにある「通慶里」とは、1913年に建てられた、中国と西洋の様式を融合させた天津最大規模の建築群です。その建築面積は3000平方メートルで、10棟の住宅からなります。もともとは河北の米屋が開いた両替商でしたが、その後、民間住宅へと変わったんだそうです。通慶里の建築様式は、典型的な天津流建築に属していますが、また西洋建築の特徴も取り入れられ、それが軒先や外の廊下部分などに現れています。

玉皇閣 通慶里の近く、海河寄りにある建物です。明代の古典的な楼閣式木造建築で、明の宣徳2年(1427年)に着工されたそうです。玉皇閣は当時の天津においては規模最大の道教建築群で、もともと「旗竿」「牌楼」「山門」「前殿」「清虚閣」「三清殿」「鐘鼓楼」「配殿」「八角亭」などがあったそうですが、現存するメイン建築は「清虚閣」です。実際に行って見たわけではないのでわかりませんが、資料によれば歴史的価値の高い建物で連日多くの観光客を迎えているとのことです。古文化街へ行くとついつい街道沿いの土産物にばかり目が行ってしまいがちですが、街道から一歩足を踏み外して、歴史的建造物を眺めてみるのも一興ではないでしょうか。

天后宮 「先有天后宮、后有天津城」(先に天后宮ができて、後に天津の街ができた)と言われるように、天后宮の歴史は非常に古く、元の泰定3年(1326年)に建てられたと伝えられています。1985年天津市政府によって修復工事が行われ、「山門」「牌楼」「前殿」「正殿」「鐘楼」「鼓楼」「蔵経閣」「啓聖祠」「鳳尾殿」「配殿」などの宮中建築と「戯楼」などの付属建築が往年の輝きを再現しています。そもそも「天后」とは海の女神のことで、「媽祖」とも呼ばれます。台湾や福建など中国の沿岸地域にはこの媽祖を祀った「媽祖廟」が多数残っているそうです。

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にぎやかな古文化街の中で厳かな雰囲気をたたえる「天后宮」
内部には「天津民俗博物館」も



さてさて、お次は古文化街にある老舗・名店をご紹介します。

楊柳青年画

楊柳青年画 北門から入って歩くこと数十メートル、右手にドドーンと「楊柳青年画」の看板が目に飛び込んできます。店の名は「藝海堂」。この店が老舗かどうかはともかくとして、ここでは天津を代表する民間工芸である楊柳青年画が、わざわざ郊外の楊柳青まで足を運ばなくても間近に触れることができ、購入することもできます。いろいろな図柄、いろいろな大きさの年画があり楽しめます。

果仁張

「果仁張」 言っておきますが、張仁果ではありません、果仁張です。「果仁」を売っている張さんの店ということで、果仁張です。「果仁(guoren)」は、「果仁儿(guorenr)」と儿(アール)化されることもあります。「果仁」とはなんぞやと言いますと、広義には「種の中身」、狭義には「落花生の実」のことです。「果仁張」は落花生を使ったいろいろなお菓子を売っている天津の老舗中の老舗。いろいろなソースでコーティングしたカラフルな果仁や、果仁を中に包んでしまった伝六豆のようなものなどバリエーションに富んでいます。天津の土産と言えば巨大なカリントウ「麻花儿」を思い浮かべる人が多いようですが、果仁張のほうが喜ばれるのではないかと、わたくしは思います。

泥人張

「泥人張」 「泥人儿(nirenr)」は泥人形のことで、楊柳青年画と並ぶ天津の代表的な民間工芸。「泥人張」はその老舗で、天津では泥人形と言えばもう「泥人張」を指すくらい有名です。博多人形を髣髴とさせる美しいフォルムの美女の人形から、京劇の面を額縁に納めたおしゃれなもの、今にも動き出しそうなリアルなおじいさんの人形、お尻をむき出しにするなどの滑稽なポーズで笑いをそそる2頭身にデフォルメされた子どもの人形、はては「おい、それ、伝統工芸かよ!」と疑いたくなるような明らかに手抜きっぽいミニサイズの人形まで、多種多様な作品が店内に所狭しと並べられています。値段は15元くらいのものからウン千元という非常に高価なものまでピンキリです。また、写真を持参の上でソックリさんの泥人形を注文することもできるみたいです。制作には1〜2週間、費用も数千元かかるようですが、お土産としてはよい記念になること請け合いです。

泥人張の看板娘
泥人張の店頭に立っている看板娘!?
っていうか、こういう感じのオバサンが
道端でよく大餅鶏蛋なんかを売っています

エライ啓蒙家
花に囲まれてオマエ誰やねん!?
…なんか昔のエライ啓蒙家らしいです。
詳しいことは背面に書いてあるので
訪れた時にでも読んでみてください



続いて、老舗…とは言いがたいが素通りすることのできない、
中国の伝統的な手工芸を間近で見学できる店をご紹介します。

花文字

花文字 これは中国語でなんというのでしょうか? 日本では「花文字」という名で通っているので私もそう呼ぶことにします。一見して寅さんがバナナの叩き売りをするようななんの変哲もない、むしろみすぼらしい感じを受ける一台の赤いテーブル。そこには、英語、日本語、韓国語でサービス案内が書かれていて、外国人観光客に人気があることが窺い知れます。「名前ですてきな絵を描こう/幸運な中国ネームをつけよう」とまあ、そういうことです。実際に店のオジサンに「この文字を描いて」と依頼すると、オジサンはおもむろに短めの筆をとり、深く考えることも、また躊躇うこともなく、白い紙の上にサラサラと文字をまるで絵のように描いていきます。絵の具がごちゃ混ぜになったようなパレットをちょいとなでた筆で、虹のような何色もの美しいラインをあっという間に描き上げてしまいます。その技は間近で見ると圧巻です。

刻章

刻章 「章」は印章、つまりハンコのことです。任意の石に任意の文字を任意のスタイルで彫り刻んでくれます。所要時間はだいたい20分くらい。あっという間に世界で1つだけのオリジナルスタンプの完成です。ハンコづくりと言えば昔、年賀状のためにイモ判を作ったことがありますが、左右逆に彫るのってけっこう難しいものです。ここでも匠の技を感じさせられます。



古文化街はまたの名を「ガラクタ市場」と言います。
たった今、私が名付けました。
もちろん、切り絵や凧などの伝統民芸品もたくさんありますが
それを凌ぐ勢いで、中国中のガラクタが集められているのです。
みやげ物を探しても「いやげ物」しか手に入らない、
…まあ…楽しいところです

空竹
「空竹」
2本の棒の先を糸でつないで、その糸の上にこれを載せて
コマのように回転させると、あーら不思議、音が鳴ります。
これが意外と難しいのです。どんな音がするかって?
それはできる人にしかわかりません

葫芦絲
ヒョウタンの楽器「葫芦絲」
色、大きさ、バリエーション豊かです。
調べてみると雲南の少数民族の楽器らしいですが
なぜ天津で?とか、あまり深く考えてはいけません

風筝
「風筝」つまり凧、カイトです。
凧は天津の伝統工芸の一つらしいです。
昆虫をかたどったもの、京劇の面を描いたものなどなど
いろんなタイプの凧があちこちで売られています。
中には、ドラえもんもどき、みつばちハッチもどきの凧など
これって伝統工芸?と首をかしげてしまうものもありますが
深く考えてはいけません

茶湯
でっかいヤカンが目印の「茶湯」
「茶湯」とは一体「お茶」なのか?「お湯」なのか?
実はそのどちらでもないようです。
昔おばあちゃんが食べていた「くず湯」のようなもので
器にキビ粉やコウリャン粉を入れて
そこに例のでっかいヤカンでダイナミックにお湯を注ぎ
松の実などお好みのトッピングを加えて完成です。
うまいのか? それは食べた人にしかわかりません。
ちなみにわたくしは一口で十分満足致しました

文房四宝
「文房四宝」
書斎に備える4つの宝という意味で、筆、墨、硯、紙を指します。
古文化街にはたくさんの「文房四宝」の店があり、種類も豊富。
さすがは書道の国だなあと感心させられます

絞り染め
雲南省名産のロウケツ染め、絞り染め
なぜ天津で?と深く考えてはいけません

ショッピングバス
古文化街の街道を行ったり来たりするだけの
ショッピングバス(全行程1元)
古文化街を訪れたら乗ってみよう

くれよんシンちゃん
小坊主の置き物と、くれよんシンちゃんの置き物
なぜくれよんシンちゃんなのか? 深く考えてもいいけど
答えは出ません、きっと

マトリョーシカ
なぜかロシア民芸のマトリョーシカが!
女の子に交じって、なぜかパンダやクマまでが!!
なぜ… なぜ… 考えてはいけません。
なぜならそれが古文化街だから


新世界購物広場
古文化街の南側の門を出ると
「新世界購物広場」が存在感を誇示しています。
地下にはカルフール、地上にはスターバックス、マクドナルドなど
けっこう頑張っています。
そしてその奥(写真左)に見えるピンクの垂れ幕が下がっているビルは
今年5月にオープンした台湾系デパート「遠東百貨」です。
地下のスーパーの品揃えの豊富さ、陳列の整然さは天津では抜群。
スーパーのとなりのベーカリーもおすすめです


エピローグ 簡潔に締めくくろうと思って書き始めた最終回も、やっぱりだらだらと長くなってしまいました。最後まで読んでくださった皆さま、ありがとうございました。

この「天津そぞろある記」を連載していたわずか3年の間だけでも、大きく変化を遂げてきた天津の町。今年6月には地下鉄一号線がリニューアルして開通しました(現時点で確認できているのは試運転までですが…)。またこの秋初めには天津伊勢丹も拡大移転してグランドオープンするそうです。これから先もっともっとドラスティックに大都会へと変貌してゆく天津を見ないまま帰国してしまうのは、ちょっぴり惜しい気もします。でもお別れです。再見!天津。謝謝!天津。

追伸:
来月からは新連載『けようの日本スピリチュアル紀行』がスタート。次シリーズも乞うご期待!

…ウソです。

トンパ大王
「次回からはトンパ大王の夜天津紀行です」

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Illust and Text by KEYOU...http://keyou.at.infoseek.co.jp/


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