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Root No.26
黄崖関長城
〜天津の万里の長城〜

「天津の万里の長城に行かないか」と中国の友人に誘われて、10月末某日、日帰りで天津郊外薊県の「黄崖関」に行ってきました。万里の長城と言うと、観光地としては北京の「八達嶺」が最も有名かと思いますが、実は天津にも立派な長城が残っているのです。

いざ長城へ

天津の長城「黄崖関」は“天津十景”の一つで、国家AAAA級に指定されている景勝地です。天津市区の北の郊外「薊県(けいけん)」に位置しています。朝7時過ぎ、わたくしと友人、友人の知人ら総勢15名を乗せた小型ワゴンは天津市区を出発、津薊高速公路を快調に飛ばして1時間半余りで薊県に入り、さらに山道を北へ北へと走ること1時間、黄崖関の駐車場に到着しました。

秋たけなわの観光シーズンを迎えたこの日、黄崖関の駐車場には観光バスや自家用車がたくさん止まっていました。5〜6人の男女が、しつこい記者団さながらに到着したばかりの乗用車を囲みながら走っています。彼らは観光客に長城の途中までの送迎や道案内の売込みをしているようです。必死なのは分かりますが、車にぴったり張り付いて今にも轢かれそうです。

駐車場の南側はトイレと売店、西側は黄崖関の入場門です。この入場門から入って博物館や碑林を抜けて「黄崖正関」(黄崖関の正門)から長城に登るのが一般的なコースのようです。すべて歩いて回る体力のない人は途中まで車を利用します。北東側の「太平寨」まで車で行って「黄崖正関」まで歩いて帰るか、あるいは「黄崖正関」から「太平寨」まで歩いて、そこから車で駐車場まで下ります。体力に自信のないわたくしたちは車で「太平寨」まで行くことにしました。駐車場と「太平寨」間を行き来している車には8人乗り小型ワゴンと11人乗り小型バスの2種類があります。小型バスのほうが格段に安いものの屋根しかありません。というわけでわたくしたちはワゴンに乗り込みました。

 


駐車場と「太平寨」を結ぶ小型バス

長城をゆく

ワゴンに乗って10分余りで「太平寨」に到着。ここでチケットを購入します。料金は1人40元。このチケット1枚で、「太平寨」だけでなく、主要観光地点である「八卦城」「迷宮」「台北碑苑」「長寿園」「博物館」「碑林」「名聯堂」「王帽頂」が見学できます。

「太平寨」付近に掲げられている看板等の資料によれば、黄崖関長城の建設が始まったのは紀元6世紀、北斉天保7年(556年)のことです。その後幾度か修復を繰り返し、現存しているのは明代に修築されたものです。一部には1400年以上昔に積み上げられた粗石の壁も残っています。このあたりの長城は海抜平均900メートルの山頂に沿って造られており、起伏が激しいのが特徴です。また、夕方になると長城の壁が夕日に照らされて金色に輝くことから“黄崖夕照”と称されています。今回わたくしたちは残念ながら時間の都合で“黄崖夕照”を拝むことはできませんでしたが、頭上に真っ青な秋空、眼下に紅葉した木々を眺めながらの長城散策もなかなかよいものでした。


「太平寨」から長城を目指す

「太平寨」の門をくぐると前方に長城が見えました。その長城を目指していざ出発です。しばらく道幅の広い、なだらかな上り坂が続きます。道の脇の紅葉した木々が秋の風情を感じさせてくれます。マツやクヌギなども生えているのでしょう、あちこちにマツボックリや木の実が落っこちています。市内では見かけないドングリが落ちていたので嬉しくなって拾い上げてみると誰かが食べ散らかした甘栗の皮。まあ天津の秋の風情とはこんなものでしょう。気を取り直してしばらく歩き続けると、灰色の壁が眼前に広がりました。ここからいよいよ長城に進入です。1段が10センチくらいの石の階段が延々と続いています。さすが明代の修築後のものだけあって劣化が少なく、石段一つひとつがきっちりと並んでいて整然とした印象を受けました。


太平寨長城を見下ろす

長い長い灰色の石段を歩き続けること30分、見るからに古い円柱形の壁にたどり着きました。同行のガイドさんによれば、この壁はこのあたりの長城建造が始まったばかりの頃、つまり1400年余り前に築かれたものだそうです。粗石を固めて作ったレンガを大小まちまちに積み上げており、今にも崩れ落ちてきそうな危うい感じがします。同時に、このように一見脆そうな造りでも1400年の時を経て今なおしっかり残っていることに驚かされます。建造に携わった古人の苦労が偲ばれます。

1400年前の城壁を手でペタペタと触りながら180度裏側に回ると、それまでの整然とした灰色の石段は姿を消し、その代わりに、人一人がやっと通れるほどの狭い下り坂が現れました。この道も1400年前のものかもしれません。見たところほとんど整備された形跡がありません。手すりはおろか落下防止のロープすらないのです。勾配もけっこうきつそうです。ここを下りるのは嫌だなあ、でも歩いてきた道をむざむざと引き返す気にもなれない…。進退をためらっているわたくしの横を、なんとスーツに革靴のおじさんたちがヒョイヒョイ追い越していくではありませんか。革靴でも下りられるのならと、わたくしも意を決して前進することにしました。


階段の先の茶色い壁は1400年前の築造

その裏側に回ると…


石段がない

カタカタと笑う膝を押さえながら未修築の坂道を下りきると、ふたたび灰色の整備された石段になりました。さらに歩き続けると、同行していたガイドさんがおもむろに1メートルほどの長城の石壁をよじ登って、壁の向こう側に姿を消してしまいました。後に続けということでしょうか。わたくしもわけもわからぬまま石壁をよじ登ります。石壁をまたいだ先には道らしい道が見えません。ガイドさんは、長城の壁はおろか人の手が加えられた形跡のない獣道をずんずん突き進んでいきます。わたくしも、不安に駆られながらも取り残されまいとガイドさんにぴったりくっついて歩きます。一体どこへ向かっているのかガイドさんに尋ねたら、「黄崖正関」までの近道を通っているとのことでした。わたくしたちの体力を気づかって、ガイドさんが機転を利かしてくれたのでした。


獣道を行くガイドさん。もう長城は見えません

獣道をしばらく行くと視界がひらけ、眼下にわたくしたちの目指す「黄崖正関」が姿を現しました。黄崖正関だけでなく、博物館や碑林など全体が見渡せます。わたくしたちのゴールはもうすぐです。


獣道から見下ろす「黄崖正関」


碑林。長城を背に20代の毛沢東像が立っている

黄崖正関から碑林、博物館を抜けて入場門を出、出発地点の駐車場に到着しました。入場門の近くでは「小吃」(軽食)の露店が並び、市内ではあまり見かけないタイプの黄色い「焼餅」が鉄板の上で煙を上げながら焼かれています。食欲をそそられましたが、一行は近くのレストランで食事をとるとのことで後ろ髪を引かれる思いで黄崖関をあとにしました。レストランでは、目の前で絞められた新鮮な鶏と山菜を煮込んだ鍋をはじめ山間の農村ならではの素朴な料理に舌鼓を打ちました。久しぶりの山歩きは日々室内でPCと睨めっこしているわたくしにとっていいリフレッシュになりましたが、翌日、全身の筋肉痛に悶え苦しんだのは言うまでもありません。


なんで連れてってくれへんかったん?

 

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Illust & Text by KEYOU... http://keyou.at.infoseek.co.jp/

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