エクスプロア天津TOPページへ TOP連載TOPProfile & 目次
Root No.25
 楊柳青紅光農場
 今月ご紹介するのは「楊柳青紅光農場」です。天高く馬肥ゆる秋に、肥ゆる狗になってしまったわたくしけよう犬は、日頃の運動不足を解消すべく、天津郊外の農場で毎週末行われている乗馬教室にお邪魔してみました。

ポプラと柳の並木を抜けて

乗馬と言えば、天津ではこの方をおいて右に出るものはいないという日本人女性がいます。スーザンさん(仮名)は天津でお仕事をしながら、若い頃から培ってきた乗馬の技術と経験を活かして天津在住の日本人に毎週末こちらで乗馬教室を開いています(最近は平日のレッスンも始めたそうです)。そのスーザンさんに9月、今回の取材をお願いしたところ「ちょうど次の週末に内モンゴルで買ってきた馬を初めて調教するから来て!来て!」と快くOKをいただきました。

9月の秋晴れのある土曜日午前10時、スーザンさんと他3名の受講生の皆さんといっしょにタクシー2台に乗り分けて天津市の中心部を出発しました。カラッと晴れわたった青空の下、タクシーは楊柳青に向けて西へ西へと快調に飛ばします。走ること20〜30分、外環線を越えると、それまで林立していた建物が姿を消し、同時にいかにも天津らしいと言えるゴミゴミとした人の活気も少なくなりました。代わって視界に入ってくる風景は、どこまでも続く直線道路とその両脇に延々と並ぶ背の高いポプラ。その奥には、背の低い柳の木が淡い緑色の葉を風に揺らしています。常日頃、切れ間のない自転車の流れや交差点で四方八方から入り乱れて止まって渋滞の原因を作っている自動車の列を見て辟易としていたわたくしには、このポプラと柳の並木道の景色が同じ天津にあるものとは信じられませんでした。もっとも、この直線的な道路もそれに沿って植えられた木々にも人工的なにおいを感じないわけではありませんが、深い緑に囲まれてちょっと心が洗われたような気がしました。

楊柳青紅光農場

 並木の直線道路を抜けると、再び人の営みが溢れる町に出ました。楊柳青に到着です。楊柳青には、バックナンバーでも紹介した「石家大院」という富豪の屋敷跡や「楊柳青年画」の工房、「楊柳青熱帯植物園」などなどちょっとした観光名所が点在しています。「楊柳青紅光農場」はそれよりももう少し郊外にあって、ガタガタのジャリ道を走ってやっと辿り着きます。農場の門をくぐると、左手には広大な馬場が広がり、右手には厩舎、その奥にレストランやビリヤードなどの娯楽施設がいっしょになったロッジ風の休憩所があります。さらにその奥には果樹園が広がっている様子でした。足元ではニワトリや野放しのイヌが走り回っていました。この日は見かけませんでしたが、ブタなんかもいるらしいです。ここでは動植物と人間がバランスよく共存しているようです。


農場をうろうろしているイヌ

 まずは厩舎を見学。柵越しに馬たちを間近で見ます。でかい、というのは想像していたものの、実際に目の前にするとビビッてしまいます。不用意にカメラを向けて馬の怒りを買って20メートルくらい蹴り飛ばされる自分を想像したら萎縮してしまって、写真を撮っていません。隣にいた受講生の奥様たちは今回が2回目のレッスンで、1度でも馬に乗ったことがあると馬との距離も縮まるのかとても堂々としたもので「怖くないわよ〜」と笑っていました。


厩舎

さあいよいよ乗馬。馬場へ向かいます。


 馬場の柵の内側に乗馬教室の生徒さんを乗せるための馬たちが待機しています。この馬たちは初心者でも安心して乗れるようしっかり調教された大人しい性格の馬ばかりです。

 柵の外側、写真右側にいる赤い鞍をつけた黒毛の馬にご注目。この黒馬は、スーザンさんが8月に自ら内モンゴルまで買い付けに行って買ってきた馬です。前述した通りこの日はこの馬の初調教日でした。内モンゴルからやって来たばかりのこの馬は、柵の内側の馬たちに比べて体がほっそりしています。ひがな一日内モンゴルの草ばかりをはんで育ったためです。これからここの農場で1日3食の飼料をモリモリと食べれば数週間で他の馬たちと同じようなガッチリとした体つきに変わるだろう、と農場のスタッフが言っていました。

 スーザンさんによる黒馬の初調教が始まりました。黒馬につないだロープの端をスーザンさんが持って、もう一方の手に持った鞭で叩きながら馬に指示を出します。見たところなかなか素直な馬のようで、スーザンさんの指示に従ってゆっくり歩いたり、止まったり、駆け足になったりしていました。でも、ご褒美のニンジンをスーザンさんの手から食べようとはしませんでした。人の手から食べ物をもらって食べるという習慣がないのですから、それも仕方ありません。これから調教を重ねていくことによって、黒馬もここでの生活に慣れ、スーザンさんや農場のスタッフたちとの距離が縮まっていくのでしょう。この馬がこれからどのように人を乗せられる馬へと成長していくのか楽しみです。

 新参の馬の調教が済んで、いよいよ乗馬教室の時間です。本日の3名の受講生のみなさんは一週間前に基礎を勉強しており、農場のスタッフが見守る前で難なく馬上にまたがり、ゆっくり並足を始めました。わたくしも挑戦…と思いましたが、前日にお腹をこわして体調が回復していなかったのと、学生時代に小豆島(二十四の瞳で有名な)で観光用の馬から落馬しかけて以来トラウマになっているので、柵の外から大人しく見学です。当初の運動不足解消の目的は完全に私の頭から飛んでいます。

 スーザンさんの指導もいいのでしょうが、受講生のみなさんはどなたも初心者とは思えないほどしっかり馬に乗っていました。馬にまたがったまま立ち上がったり座ったり、または馬上でのけぞって馬のお尻を触ったり前かがみになって馬の頭を触ったり、ということまでやっていました。時々馬から下りて休憩しながらも、時間があると、もう一回乗ってもいいですか、と盛んに練習していました。

 自分よりもはるかに大きい動物の背中に乗って、それをコントロールしながら歩いたり走ったりするのは、だれしも最初は怖いものです。その恐怖感は大切で、常に持っていてほしい、とスーザンさんは言います。馬に乗る以上はやはり怪我をする危険は常に付きまとっているので、ちょっと怖いと思うくらいの緊張感を持ちながら馬に乗ってほしいということです。恐怖感、緊張感を超えた先に馬との一体感や乗馬の楽しさがあるのでしょう。そしてそれは当然のことながら馬に乗った人にしか得られないもの。楽しそうに馬に乗っているみなさんの姿が、柵の外から眺めているわたしに羨ましく映りました。今度また体調が万全な時にチャレンジしてみたいと思いました。


今度はよろしくね

1〜2時間のレッスンを終えてから、向かいのロッジ風レストランで中華料理のランチです。農場でのびのび育ったニワトリが産んだ新鮮な卵とトマトの炒め物をつまみながらいただくビールは最高。そんなわけで、肥ゆる狗はこちらの農場へ来てますます肥えてしまったのでした。

うまなみ

 

★作者へのお便りはこちらから。

back        NEXT
Illust & Text by KEYOU... http://keyou.at.infoseek.co.jp/

[エクスプロア天津TOPページへ] [天津の観光地] [エクスプロア中国トラベル]

Copyright(C) since 1998 Shanghai Explorer