■■第五回 健康に暮らす~ 自分の足で確かめる~■■
(「上海鼎瀚(ていかん)中医クリニック」 藤田康介医師)
今回は、医療の分野からアプローチしてみたい。危険なものから体を守るというのも健康に暮らす上で重要なことだが、積極的に治療したり、医学指導を受けるのも大切なキーポイント。せっかく
中国伝統医学(中医学)の本場にいるのだから、これを知るにはいい機会。中国で暮らす外国人である私たちが気軽に中医を利用できるのか、また中医学の観点から見た「中国で健康に生き抜く」知恵は…。当サイトの編集長としてもおなじみ中国伝統医学の藤田康介医師に聞いた。
○中医学のクリニック
わいん
:素敵なクリニックですね。こういう中医のクリニックって以前からあったのですか?
藤田医師 : ありますよ。遡れば
古代から中医学が患者を診ていたわけですから。
昔は西洋医学も中国に入っていませんでしたし。
一度中国でもこの分野は衰退の傾向があったのですが、最近は中国政府が国を挙げて支援している分野となり、訪れる患者も増えています。
わいん: 世界的に中医学の「生薬」の価格が高騰している、という話もありますね。
藤田医師:そうですね。
環境問題や気候の変動が大きなネックになっています。日本も漢方薬の輸入を中国から頼っていますしね。でも、中国
政府の支援は功を奏しています。
世界的な中医学のネットワークとなっている学会で、中医師の国際試験も開催されるようになりました。
わいん:それじゃ世界的に信頼される医学になったんですね。
藤田医師:私のところに見える患者さんも、国籍はさまざまです。70%が日本人、それから韓国人や欧米人で、中国人は10%くらいです。もちろん中国人は中国人医師のところに行くということもあるんでしょうが。でも、意外と中医学のことを知らない中国の患者さんも多いですよ。
○どんな病気でも利用できる中医学
わいん:日本の漢方と中国医学とは違うんですか?
藤田医師:日本では制度上、西洋医が
を処方して、
薬は主に製薬会社が作る製剤
(エキス剤)を
使うことが多いです。もちろんすべてではないですが。中国では専門の中医学の医師
が生薬、つまり煎じ薬ですね、これを処方します。
ここでは西洋医師と中医師のライセンスが平等に独立しているのです。診断も出します。
わいん:やはり中医にかかるっていうのは慢性疾患が多いのでしょうか。
藤田医師:日本人はそのように考えている方が多いですね。しかし本場ここ中国では、たとえばインフルエンザや食中毒、風邪や内臓疾患など日本では西洋医にかかることが多い病気でも中医を利用する人が多いです。
もちろん、西洋医学と併用する、という人も多いですが、台湾人の患者さんはまずは中医にやってきますね。
わいん:インフルエンザや食中毒も?治せるんですか?
藤田医師:もちろんです。ちゃんと治療ができますよ。
風邪だったら
生薬を飲んで1日2日で治ってしまう人もいます。中医というと長期治療と考える人も多いようですが、慢性の病気にはもちろん長期にわたって治療をしますが、
実は即効性のあるものもあるのです。
もともと、中医学とはそうした急性疾患を治療するものでしたから。一方で、慢性疾患なら何十年とあった症状が無くなってしまうこともあります。
病気を治療する場合対症療法も必要ですが、
結局は
病気を起こしている原因を取り除かないと根本的な治療になりません。中医学では
常に
根本的な治療
ができないかを考えるので、
患者さんにも受け入れやすいのでしょうね。
わいん:じゃあどんな病気でも、普通に中医の病院に来ていいんですね。
藤田医師:もちろんです。
○患者とのコミュニケーションが大切
わいん:日本では「セカンドオピニオン」をもらうこと一つでも、かかりつけの病院の顔色をうかがったりして結構大変だと聞きますが、中国はそんなことはないのですか?
藤田医師:中国の患者
さん
は自分のカルテを持っていますよ。
基本的にオープンです。
それに
患者さんも進んでいろいろな病院で診察をうけているので、
競合しているのとは
また違うと思います。
一方で、
病院側
も積極的にセカンドオピニオンをやってあげていることもあります。
ただ、たまにカルテを無くしてしまう方もおられるので、厄介ですが。
わいん:先生のところにいらっしゃる日本人は主にどういった病気の方が多いのでしょうか?
藤田医師:先ほど言った普通の風邪や発熱、インフルエンザといったものから、生理痛など婦人科系の病気、痛風に糖尿病、高脂血症などメタボ関連、慢性疲労、アトピーなどが多いですね。
子供の場合はアレルギー性鼻炎、虚弱体質、アトピー性皮膚炎、小児ネフローゼとか。本当に多種多様で、年齢層も3ヶ月の赤ちゃんから90歳をこえる高齢者まで。それほど上海で生活する人が多様化しているのですね。
わいん:予約制なんですよね。
藤田医師:そうです。
中医学は、患者さんとの交流・意思疎通をしながら、治療方法をイメージしていきます。
というのは、先ほども申し上げましたが、
中医学では、どんな疾患でも全身を診ます。
その過程でいろいろな問題が見つかることもあります。病気の原因はどういうところに隠れているかわかりませんから。
わいん:背中が痛いと思っていたら実は胃の病気だったとか、よく聞きますよね。
藤田医師:ですから患者さんのどんな話にも耳を傾けます。患者さん自身の推測でも雑談まじりでも構わないんです。ですから一人の患者さんに十分の時間をとります。
わいん:どのくらい時間をかけるんですか?
藤田医師:30分で終わる人もいれば最高2時間かかった人もいますよ。治療にも時間がかかりますから。気局、時間が問題ではなく、どうしたら成果をあげることができるかがポイントです。だから、中医学はありとあらゆることをするんです。薬の処方だけでなく、必要であれば針やマッサージも。ある意味、中医学では究極の統合医療を実現しているのかもしれません。
○日本人が気をつけることは?
わいん:お医者様の立場として、中国に住む日本人に気をつけてもらいたいこととはどんなことですか?
藤田医師:まずはあまり変わった食べ物などに手を出さないこと。それからあまりにも汚いレストランなどを利用するのも避けること。この時期は食中毒の患者さんが非常に多いです。
わいん:なるほど。
藤田医師:それから、噂や伝え聞きなどに振り回されず、自分の目で確かめることをお勧めします。たとえば有機野菜とか、信頼のできる食品店とか、見学させてもらって自分で納得してから買うのが一番です。
わいん:有機農場は見学させてくれるところもありますね。
藤田医師: 中国では、こちらから言えばいろいろと親切に情報を公開してくれるところがたくさんありますよ。台湾人の奥様方などはそのあたりをうまく利用して、よいと思ったお店にはグループで交渉して安く購入させてもらったりなど工夫しているようです。やはり、自分の目で見て、足で確かめることが、本当に自分を守る手段です。
わいん:ありがとうございました。
編集後記:
上海生活が長い藤田医師は、お子さんが生まれたのを機にさらに衛生や環境にこだわるようになった様子。自宅に浄水器をつけ、有機野菜の宅配を頼むなど、工夫をしているが、ご自身でも述べている通り、一度は必ず自分の目で生産現場などを確認してから調達しているようだ。
藤田医師の診察室は広く明るく、患者も心地よく診察が受けられそうな雰囲気だった。また気さくな人柄で、気軽に相談にも乗ってくれそうな雰囲気が、患者さんの人気を集めているようだ。