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新入社員の男の子が、路上で携帯電話を盗まれたと嘆いていた。5000元もした携
帯電話には、友人の連絡先や卒業論文、好きな歌手の歌がダウンロードされていたの
だと、目にはうっすらと涙さえ浮べる。高価でも最新式の携帯電話を選んだのは、人
に自慢したいという思いもあったと言った。
中国の携帯電話契約者数は、05年末時点で4億人弱。世界最大の通信市場である。
一方で、買って1年も経たないうちに買い替えるユーザーが約20%もおり、中
国国内で1年に廃棄される携帯電話は、1億台を上回っているとの試算が発表されて
いる。廃棄とは、「不要なものとして捨てられる」ということだが、そんなに大量
に、本当に廃棄されているのだろうか。
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若い女性に人気の服飾店も多い
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この疑問について、何かに出会えるかもしれないと、私は「深センの秋葉原」と言わ
れる「華強北」に向かった。深センで2番目に背の高い賽格大廈から紅荔路ま
での900メートルに広がる「華強北商業区」には、オフィスビルや女人世界、男人
世界、児童世界もあり、実にさまざまな年齢の人が集まる。18歳から28歳までを
ターゲットとした「流行18・28」という商業ビルもオープン予定で、今後5年で
大きく整備されてゆく場所だ。
中国における電機産業の集積地といわれる華南地区で、深センは集積回路(IC)の
主要な輸出入地域でもある。同市の06年上半期のIC輸出入量は、前年同期比
45.8%増の24億3000万枚。輸出入額は70.7%増の7億5000万元。
製品は主に台湾、韓国、マレーシアなどのIT製造拠点から輸入し、香港、シンガ
ポールに集中して輸出されている。
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「深セン市工業産品展示中心」新製品はまずここに並べて市場の反応を見る
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「華強北商業区」の有名な電脳街は、『常設展示会場』の役割も担っている。華南で
生産された製品や、大陸の入り口として香港を経由し集まった品々、中古の電子部品
など、ありとあらゆる製品が並ぶ。種類が多く、価格も安いとあって、私もかつてこ
こでPC関連機器やファックス、携帯電話を買い求めたことがある。
その日私は、中国の携帯電話事情に詳しい人について、市場調査に同行させてもらっ
た。ブースがひしめく携帯電話関連のビルには、商品を作るのに必要なすべての部品
と道具、設計図、そして組み立てる技術を持った人が集結しているのだった。上階に
上がると、向こう側まで見渡せないほどの広大なフロアに、2メートル四方ほどに仕
切られたカウンターが並んでいた。主(あるじ)の多くは若い女性だ。内陸から出て
来たとひと目でわかるバイヤーが、黒いビニールに詰めて大量に商品を買っていっ
た。私は主であるその少女に、どんなものが売れているのかと聞いてみた。しかし意
外なことに、誰も何も買っていないと答える。さらに食い下がって話をするも、「あ
なたが一体何のことを言っているのか分からない」と取り付く島もない。
今度は、一緒にいたこの市場に詳しい人が、製品の価格について私の知らない中国語
で尋ねた。少女は、カウンターの下から「新品」として並んでいる商品の別リストを
出し、「新中古品」としての価格を提示する。業界の暗号とでも言うべき言葉を使っ
て、はじめて取引が始まるようである。一見、手鏡をもって髪の毛を直したり、ほお
肘をついてぼんやりと座っているように見える彼女たちのしたたかさに驚き、ちょっ
と怖くなった。
突然火災報知器が鳴り響いて、だだっぴろいフロアを分割するシャッターがゆっくり
と閉まりはじめた。フロアは恐ろしい数の人で埋め尽くされていたが、空気は少しも
揺れない。慌てることはないという言葉に不安を覚えながら観察すると、それは取り
締まりが入るという合図なのか、少女たちはごく自然に、かばんを斜めがけにして場
所を離れた。
実は、このエリアで売られている中古部品を集めて作った製品が、内陸に飛ぶように
売れているのだという。携帯電話は廃棄などされていない。中国には新しく買う経済
力を持った人がいれば、分解できるものを集めてくるルートがあって、再加工する技
術を持った人がいる。そんな製品が欲しいという需要もある。『錬金術』なんてずい
ぶん時代錯誤な話だと思っていたけれど、実際にこんな現場が目の前に広がっている
のだ。
鳴り響く火災報知器がぴたりとやみ、まるで間違いでしたとでもいうように、再び
ゆっくりとシャッターが開きはじめた。心臓がどきどきして、足早に現場を去った。
華強路駅までの道すがら、現行犯逮捕の現場を見た。
労度集約型の製造業を基礎に、隣接する香港との関係強化を通じ、社会主義体制に市
場原理を取り込む『実験都市』として中国の経済成長を牽引してきた深セン。中国で
最も早く改革開放を実施し、急激な経済躍進を遂げるこの地に、仕事を求めて地方か
ら労働者が出稼ぎに押し寄せる。彼らに混じって体当たりで挑んでみたいと思う反
面、濁流に飲み込まれてしまうことを怖がり、躊躇する自分がいる。「大きな顔をし
て歩く」どころではない。目の前に広がるこの巨大な中国を前に、上澄みだけをすく
い取って言葉を並べ替えるだけが精一杯の臆病者で、なんとも情けない状態なのであ
る。
★華強北商業区★
行き方:地下鉄一号線華強路下車、徒歩3分
 (写真左)駅 (写真右)広場
 深川聖延苑酒店Pavilion hotel
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